TOKAIRIKEN 東海理研株式会社「50周年 Anniversary」

研究事例 東海理研「電子鍵」デジタル@ICキーに想う

スタンレー電気株式会社 元 代表取締役社長 故 手島 透 様

筆者がスタンレー電気(株)に勤務した時代に経験した想い出を後日まとめた『研究成果の展開と事業化に当って』(前・後編)と題して寄稿した拙文がある。今回、東海理研(株)周年祝いに寄せて、この拙文をもとに筆者の持論を述べたいと思う。ご参考になる事を期待して居ります。

独創の研究開発・革新的新技術開発は大変むずかしい困難事であるが、それ以上に困難でむずかしい事が当該研究成果の「販売」と「実用化」であると力説したい。

即ち、未踏の新市場開拓、お客様の開拓であります。今迄、経験した事のない全く新しい市場(マーケット)に、今迄、取扱った事のない新技術の商品(製品)を売るための開拓は、これほど困難でむずかしい仕事は無いと思う。読者各位もこれから経験され同感することであろう。

独創的、革新的技術開発による発明発見の新商品、世界最初の新商品であっても中々売れない。

お客様が買って下さる保証は全く無い。ましてや、当該新商品で儲かる保証も無い。

お客様に売らなければ、お客様がたくさん買って下さらなければ、儲からない。なんのための研究開発か?挑戦結果の使命感、責任感は?… 自己責任の追及に苦しむ結果となる訳だ。また社内の仲間からは白眼視され、肩身の狭い思いを経験することにもなる。処が世の一般的な傾向として、大方の発明家、研究開発に携わる者の癖、「良い物を造れば」「新技術になる発明特許製品」ならば、「売れるもの」と勝手に思い込む者がかなり多くいる。…困ったものだ。
筆者は、これを「一人よがりの研究開発」「お客様不在の研究開発」即ち、「独善の研究開発」と称している。何故ならば、技術的優位性にのみ走り、お客様の利便性、即ち、使い勝手を始めとする価値観、商品の製造販売の感性…お客様の心や営業の心を無視した研究開発に走る傾向が強いからだ。こんな連中は「売れぬのは営業が悪い」、お客様の価値評価、技術レベルが低い如き「自己満足」「うぬぼれ」に終始しがちだ。だから売れない。 …困ったものだ。

換言すれば、「お客様のため」「次世代の我が社の主力商品のため」の新技術開発・新商品開発と自称しながら市場の実体や、お客様の心とかなり「かけ離れた世界」で一人よがりの研究開発に走ってしまう傾向がある。

また日本の大方の企業の購買制度を見るに、新規取引開始規定など関係する「稟議システム」等の存在、即ち自企業の安全性・保全性・健全性などの建前から、新規取引の開始や新技術の採用に当っては慎重になる傾向が強い。「技術立国日本」「知財立国日本」「物造り立国日本」などを声高らかに唱えるが、大部分の企業体では、今迄に経験した事の無い独創的な新技術、革新的な新技術による製品・商品やシステム装置などの採用には、極めて慎重である。

同様に当該新商品を製造販売する企業に勤務する、営業する立場の社員・セールスマンまでもが新商品の販売に慎重であり、積極的な販売促進に努めない傾向が極めて強い。何故ならば、開発目的を知らず、使用方法、使用効果、優れた特長を理解していない、つまり勉強していない上に、今迄に売った経験が無いからだ。言い換えれば、生まれたばかりの新技術・新製品成るが故に販売するのに「不安」を覚え、後廻しのセールスをする傾向が極めて強い。だから売れないのは当たり前である。彼等にとっては、現行のセールスで間に合っている。安全サイドの保身的なセールスの心が強く働くからだ。従って、独創的・革新的な新技術商品であればある程に、今迄経験した事の無い新分野の新商品の「販売」は、「研究開発」より遥かに困難でむずかしい仕事であると理解し取り組まなければならない。

従って、筆者は実体験より得た確信する信念・信条より、次の言葉の実践を研究開発に従事する技術者各位に強く指導し、その実践を求め育成に努めた。

「第一級の技術者各位・第一級の研究者」は「第一級のセールスマンたれ」と言い続け、その実践を求めた。

技術研究所長として部下を強く指導すると共に自ら有言実行に努めた。

独創的・革新的技術開発により生まれた新商品の販売促進を実践するには、研究開発当事者が自ら率先して販売しろと言い続けた。

この事例を参考にしながら、今回東海理研(株)が研究開発に成功した革新的な新商品「電子鍵」=『デジタル@ICキ―』について筆者の独善的評価をすれば、

  • ①とんでもない事に挑戦したにもかかわらず、よく此処まで到達した。
  • ②成功感・達成感を握るには後ひとふんばりの圏まで来ている。
  • ③お得意先より提案・希望もあったようだが、研究費や助成金は無く、自費で専門外の電子機器分野の研究開発によくもここまで平気で挑戦して来た。
  • ④東海理研(株)の積年の企業力「板金加工」の分野で日銭を稼ぐことが出来たからこの無謀とも言える新分野の研究開発を支えることが出来た。
  • ⑤東海理研(株)の社長を中心とする開発関係者がギブアップすることなく新技術開発に挑戦し続けた。言い換えれば、異文化をよくここまで勉強し、かつ、こなした。
  • ⑥東海理研(株)のトップ経営者が研究開発の中止もしくは断念すること無く、そして開発のリーダーをクビにもしなかった。

この辺の諸事情が、それぞれに良い方向に交錯し、今日までの成果を築いたと想像する。中でも、成功の保証の無い、全くの異分野の未経験の新分野に蛮勇とも言うべき勇気をもって挑戦した…その実は多分、「これならいける」と少し自信を持つ今日この頃の状態になる迄には、トップ経営者の相当の「辛抱」があり、そして成功の保証は無い研究開発だが、まあ「しょうが無い」「まかせるか!」「何とかなるさ」という「勘」がここまで支えて来たと筆者は推察する。

勿論、当該「電子鍵」の電子技術に関係する技術者各位の努力も見逃すことは出来ないのは当然の事である。

東海理研(株)は40年に亘る「板金加工」に関係する企業としてかなりユニークな存在、「知的財産権」や、ハイテクの体質を持った企業体であるが、このままの企業体質で21世紀の新時代を克服し繁栄を続ける保証は無い。長年に亘って創業者が築いた基礎体質・技術力・信用力を活かしながら、次世代に更なる発展と繁栄を可能にする、企業体質の改革へ挑戦する「キッカケ」を「電子鍵」で掴んだと筆者は高く評価する。

調査するに、どうも研究開発挑戦の動機は、有力なお得意先の要望でスタートしたようだ。途中で技術的な困難に直面し、将来への不安を覚え、「研究開発中止も止むなし」とする決断の事態も経験したようだが、こんな時にお得意先の「勇気付け」「要望」「課題」などなどの存在、つまり筆者がここで力説し度いのは、お得意先の「無理難題」「無茶苦茶な要求」「非常識」とも言うべき要求課題に挑戦すると、意外にも「新技術」「新商品」「発明発見」などの成功の「種」になるということである。すばらしい見事な成果例として評価出来る参考事例である。所謂、東海理研(株)の現在の主力商品である板金加工、技術分野から見れば、かなりかけ離れた未経験の異質の新分野への進出であり、故に人材育成から始めなければならない研究開発であり、次世代商品の開発、即ち、高付加価値商品開発への進出と挑戦であった。また時代の要請する、安全安心の時代にふさわしい管理の電子化・自動化・記録の省力化など「21世紀」の時代に要求される背景をタイミング良く捉えた新時代への移行に伴う企業体質の改善改革への挑戦であった。

筆者が評価する処は東海理研(株)の持つ旧来の優れた固有の技術・企業力を100%生かしつつ、当該商品の枯れない内に更なる高付加価値化に向けた次世代新商品の開発、企業体質の改革に取り組んだ点である。何処の企業も同じだが先輩社員は平均的に「新しい変化を好まない」「安全サイドを求める」「近視眼的愛社精神旺盛」な社員が多い。困った事に彼等は、我こそが「本物の忠実社員」であると「自負して」勤務している。「将来の発展と繁栄の足を全力で引張っている」事に殆どが気付いていない。だから、一層困ったものだ。

こんな保守的、近視眼的な社員の「目を覚す」「頭を冷やす」などの精神革命を新技術開発と共に実行したのが東海理研(株)のトップ経営者の仕事振りである。

この困難を克服する企業には、次世代の発展と繁栄の栄光がやがて到来すると、筆者は確信する。

何故なら筆者は、産学官連携による新技術開発の成果で世界の自動車照明方式を白熱電球の時代から、高輝度LEDの時代に切換えることが出来た。即ち、新しい照明の時代を米国G.M.と協力して世界を築くことが出来たからである。
東海理研(株)が40年間も堅実経営された「板金加工技術」と同様に新しく生んだ「電子鍵技術」がこれから次世代社会に貢献するであろう姿を予測し、筆者が高輝度赤色LEDの新技術開発の挑戦経験から率直な評価をすれば、研究開発の試作品が完成したから、直ちに本番の「売れる商品」が生れた訳では無い。「売れる商品」「儲かる商品」にする迄に育てるには、これからが如何に大変であるかに思い至る。

即ち、独創の新技術開発・革新的新商品と自負する新商品・新技術を生むのも大変な苦労が必要だったが、当該商品を売れる商品に育てる苦しみ(生産技術)・売る苦しみ(市場開拓・お得意先開拓)の方が遥かに大変であった。今迄に無い革新的な新技術開発になる新商品の市場開拓、今迄経験した事の無い「未踏の新市場の開拓」「販売ルートの開拓」の実施に当って総括リーダーとして経験し克服したSTEPを申せば、

  • STEP.1 心密かにこれならいけそうだ!と想う迄、「かすか」にいけそうだと思う迄に、約4年
  • STEP.2 密かにやってて良かったと思うまでの期間、少し自信・確信が持てる迄の期間、約6年
  • STEP.3 これなら儲りそうだ!売れそうだ!と思える迄の期間、約8年
  • STEP.4 自他共にやったぞ!と思う迄、プライドが持てる時、俺達がやった!育てたのだと自負出来る迄の期間、約10年

つまり、今まで市場に無かった新商品・新技術開発の試作商品が出来てから、新商品が社会に貢献した、会社に貢献した、と自負出来るまでには約10年間かかる。儲かりそうだと心密かに確信が持てるようになる迄に約8年間程度を必要とした。これがトップ経営者が我が社の次世代の建設と人材育成に必要とする最も辛抱を要するとも言える期間である。

自他共に認める、『今まで業界に無かった新商品・新事業を一つの企業体内で生み、育て、かつ次世代の基幹商品とする、大黒柱に育て新時代を築く』これが本物の企業経営のプロセス責任・使命であると思う。

今一度、東海理研(株)が今回開発した新商品「電子鍵」=『デジタル@ICキ―』の開発を想像するに、研究開発に着手してすでに6年間(2002年、研究開発スタート)の結果を評価すれば、

◎やってて、良かったと思う時期

即ち、少なからず自信が持てるようになって来た時期。社員の心が不安の心から、これなら売れるかもしれない、自身の心に切り変わりつつある時期が到来しつつある。

◎或いは…

これは他社に無い良いハイテクだ!売れそうだ!と不安から自信が持てるようになって来た時期。

総括すれば開発途中ではかなり苦しんだようだが、今は開発スピードも加速され社員各位に自信が持てる状態になって来たのでは無いか?そんな気風が社員間に生まれて来た。社員各位が市場開拓に挑戦意欲が出て来た今日この頃であると想像する。

その最大の理由は

  • ①お得意先から研究開発の課題が提供された、市場が求める新商品開発への挑戦であること。
  • ②東海理研(株)の長い年月に亘って蓄積した基本技術・固有商品を生かした新市場開拓であること。長年の製造設備ノウハウを完全に活用している。無駄を極小化している。
  • ③企業のトップ自らが率先して販売の陣頭指揮に努めていること。(トップセールスの実践)

等々の理由が良い方向に重畳して来たからである。

最後によく「ギブアップ」しなかった。これも大きな成功の理由である。言い換えれば「もうやめられない」…

「電子鍵」=「デジタル@ICキー」の商品化が成功すれば、板金加工に続く東海理研(株)の第2の主力商品になるであろう。これから将来、板金加工の第1の主力商品と共に貢献することが期待される。頼もしい限りである。更に付言すれば、これに満足すること無く、「第2の大黒柱」である「電子鍵」を、これから東海理研(株)を支える大きな柱に育てると共に、更にこれから2020年迄に「第3の大黒柱」となる「〇〇〇〇」の開発に挑戦し成功を納め、3本目の主力製品、即ち、第3の大黒柱を持つ東海理研(株)になって欲しい。その実現を期待して止まない。東海理研(株)が創業50年迄に3本の大黒柱を具備する企業体になれば、少々の地震が来ても、台風が来ても、微動だにしない。小さくても質の良い、泰然自若の東海理研(株)を岐阜の地に構築することが出来るからだ。

更に付言して追加するならば最近(社)新技術協会から「産学官連携によるイノベーション創出の成功要因に関する調査研究」報告書、ならびにその集約版とも言うべき[独創技術を生む努力・育てる努力・そして売る努力]=[事例調査からの教訓]が飯沼光夫先生(千葉商科大学名誉教授)により((平)20-7)発表された。これらは(独)科学技術振興事業団(JRDC)の時代から我が国の産学官連携の新産業興しの成功版、科学技術の振興により社会貢献した、成功事業と認められた事例調査結果を集約した報告書である。その集約版の一部分を、勝手に引用する。読者各位には極めて効率良く成功の秘訣、キーポイントが理解頂けると思えるからだ。

特に筆者が此処で力説し度いのは第3項[事業化の成功要因と総括的評価]の項、次のように集約できる。

即ち、

  • ○生み出す困難、育てる困難、売る困難と次第に困難さは増大していくこと。
  • ○独創商品は、開発リーダーが売るところまで出掛けないとなかなか成功しないこと。

筆者はこの2点が成功の秘訣のキーポイントであり、良く集約されていると評価出来る。頭では理解していても、なかなか実践出来ないことでもある。

また[独創性の発揮とは]の項で、

○独創を生む具体的な行動パターン、これを別の言い方をすると、

  • ①誰よりも早くやる
  • ②やってみなければわからないことに挑戦する
  • ③成功するまでやり抜く

この記述通りである。あまり「むずかしく考えないで」お客様のために、世界の人々のために、即ち、「人のため、世のため、国のために、お客様のために」正々堂々、良いと思う仕事、役に立つと思うこと、誰も挑戦しないであろう課題に誰よりも早く挑戦する。未踏の新技術開発に挑戦する事だと思う。何度も繰り返すが、これら総てに、初めから成功の保証は無い。夢、情熱、活力、誠意、元気一杯で日々の業務を通して次世代の開拓に他人の知恵や力を誰よりも早く集結して夢の実現に挑戦するしか勝ち残る手は無い。飯沼先生の記述の如き成功事例を参考にし、更に読者各位が研鑽努力するならば、もっとその成果の質は高度化し、加速度的に成功に近づくであろう。何故ならば日本の古き良き諺に、[三人寄れば文殊の知恵]の如く、有能な部下や関係する職場の上司や仲間の理解や協力が得られるようになり、支援者が必ず出て来るからだ。「エジソン」は言った「才能は誰にもある」。要は、諸君が正直で誠実かつ元気一杯「やる気」があるか否かで決まることになる。

これが、Country Boyを自称する筆者の研究開発促進法、すなわち研究開発実践哲学である。次代を担う東海理研(株)の皆様に願うことは、今日を築いた先輩各位の努力に感謝し、創業の歴史と伝統の精神、技術を次世代に継承と伝承しながら、次世代の繁栄と発展、そして社会貢献に向けて今後も“これで良いか”と勇気ある改善改革・新技術開発の挑戦に努めて欲しい。

益々のご健闘を祈る。